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前橋地方裁判所高崎支部 昭和49年(ワ)224号 判決 1975年3月31日

原告

株式会社 緑屋

右代表者

岡本虎二郎

右訴訟代理人

木原四郎

被告

串戸常吉

主文

一、被告が前橋地方法務局所属公証人藤直道作成昭和四九年第四八七一号執行力ある公正証書に基き、昭和四九年一一月二一日別紙目録記載の物件に対して為した強制執行はこれを許さない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、本件につき、昭和四九年一二月五日当裁判所が為した強制執行停止決定はこれを認可する。

四、前項は仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告

主文第一、二項と同旨。

二、被告

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者の主張)

第一、原告の請求原因

一、被告は昭和四九年一一月二一日主文第一項掲記の債務名義に基き、訴外菅金次に対する強制執行として別紙目録記載の物件(以下本件物件という)を差押えた。

二、しかしながら右物件は、原告が訴外人に対しその所有権を留保して月賦販売したものであつて、代金は未だ完済されていないので、依然として原告の所有に属するものである。

三、従つて右物件は訴外人に対する強制執行の対象とされるべきではないので、茲に被告に対し、本件強制執行の排除を求めるため本訴に及んだ。

第二、被告の答弁及び抗弁

一、請求原因二、の事実中原告が本件物件を所有権留保により訴外人に販売したことは認める。

二、しかしそれは、原告の右物件についての代金債権を担保するためのものであるから、被告の為した強制執行を排除することは許されない。

(証拠)<略>

理由

一被告が原告主張の日にその主張の債務名義に基き本件物件を差押えたことは被告の明らかに争わないところであり、又右物件が、原告より訴外人に対し所有権を留保して月賦販売したものであることは被告の認めるところである。

二ところで商品の売買に際し、売主が目的物の所有権を留保することは、特別の事情のない限りその代金債権の担保を実質上の目的とすること一般の商慣習というべく、この場合売主は残代金を被担保債権とする担保権(留保所有権)を有するに対し、目的物の価値より右担保価値を控除した部分は実質上買主に帰属するものであつて、買主の有するかような利益は、これを一種の物権的財産権を称すべきものである。

三<証拠>によつて明らかなように、買主たる訴外人は、売主との関係において本件物件の処分を禁止されているとはいえ、日常の生活にこれを使用占有しているのであつて、第三者との関係においては、右物件は、他の一般債権者の信用の基礎ともなつているのである。

四このように考えると、売主は、残代金債権の確保に必要な限度において目的物件に対する担保権(留保所有権)を行使すれば足るのであつて、これを控除した残余の価値は他の債権者の一般担保となし得るものと解するのが相当であり、従つて、右価値を保有する買主の財産権は一般債権者による強制執行の対象となり得るものというべきであつて、このように解することにより、目的物に対する留保所有権者と一般債権者との利益の均衡をはかることが可能となるのである。

五さて本件についてこれを考察するに、伊藤証人の証言によれば、原告は訴外人に対し、別紙目録(一)記載の物件を金一〇九、八〇〇円で売却して内金四九、六一一円の支払を受け、残代金六〇、一八九円の、同目録(二)記載の物件を金一二九、〇〇〇円で売却して内金五八、二九〇円の支払を受け、残代金七〇、七一〇円の同目録(三)記載の物件を金一五、〇〇〇円で売却して内金六、八〇〇円の支払を受け、残代金八、二〇〇円の、各債権を有することが認められるところ、本件各物件の現在の評価額は、(一)の物件が金四〇、〇〇〇円、(二)の物件が金五〇、〇〇〇円、(三)の物件が金五、〇〇〇円であることは当裁判所に顕著であつて、これらの価額によつては、原告の有する右各残代金債権すら満足させるに十分でなく、従つて執行債権者の債権に充当すべき剰余の価値は存しないのであるから、執行債権者たる被告において本件強制執行を続行する利益はないものというべきである。

六このように、本件物件の売主たる原告は、この留保所有権によつて目的物のもつすべての担保価値を把握しているものと認められるので、右所有権によつて目的物に対する一般債権者の強制執行の排除を求め得るものと解すべきである。

七よつて原告の被告に対する本訴請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、強制執行停止決定の及びその仮執行宣言につき同法五四八条、五四九条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 (小西高秀)

目録

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